ランチの後、喫茶店でお茶を飲むことになりました。私は土地勘がなかったので「どこかいい所ご存知ですか」と聞くと、会話も歩幅もそこに合わせた様にレンガの階段の前に到着しました。
店内に入るとそこは昼間だというのに夜のように薄暗く、スタンドに揺らぐ煙草の煙と、コーヒーの香りと、石油ストーブの匂いが充満した喫茶店でした。
「この店は僕が学生のころからあるんですよ」と還暦を過ぎた紳士が言いました。
どおりで壁のレンガは真っ黒で、低めの天井は大きなかまくらのようでした。
そこで私たちは食事に掛けた時間よりもゆっくり時間をかけて2杯のコーヒーを飲み、壁に染みこんだ会話や煙に囲まれて映画の話を楽しみました。
帰りの電車の中で、夢の名残りのように自分のコートから煙草の香りがしました。